D51-10号機訪問記2

* 2018/05/20 11回目となる整備に参加してきました。五月晴れの好天に恵まれ爽やかな風に吹かれながら14名の方々と作業を分担して行いました。いつものメンバーに

加え遠く横浜在住の冨田氏(D51-18号機以来の二年ぶりの再会)の参加もありました。高校生の諸君はテンダー従台車・従輪部のケレンを入江氏の指導の下で行い、他のメンバ

ーはそれぞれの場所に陣取りケレン作業を展開しました。最初に前々回に報告のあったテンダー従輪部の他機刻印を確認しました。

 テンダー左第二従輪軸箱蓋にはD51182の刻印がありました。D51-182号機は1971年に門司機関区で廃車になっておりますが、1948鳥栖~1968早岐~1971門司に配

属されておりましたので、その間に小倉工場で転用されたのでしょう。また、テンダー右第一従輪軸箱蓋にはD51275の刻印がありました。D51-275号機は1973年に門司機関

区で廃車になっていますが、1939大里~1943熊本~1946門司~に配属されておりましたのでその間に同じく小倉工場での転用かと思われます。さらにテンダー右第二従輪軸

箱蓋にはD51918の刻印がありました。D51-918号機は1974年に吉松機関区で廃車になっていますが、1948門司~1972~1974吉松に配属されおりますので門司機関区

に在籍の間にやはり小倉工場で転用されたと考えられます。また、右第一従輪軸ツバのTZ88のTZは土崎を示すのならば他機の軸ツバ・さらに同第二従輪軸ツバのKY22のKY

郡山を示すのならば両者とも東北管内から九州に転属していた他機の転用と考えられ、左右の先輪と共に珍しい交換転用かと思われます。珍しい刻印としては加減リンク部をケレン

していた小林氏がこんなところに刻印が!と発見していただきました。それは普通は加減リンク板本体の前後にあるのですが、左右のとも加減リンクの内・外の側板上端にL・R511

0の表記が小さく打たれており、これも珍しいかなと思われます。


 私は先に入江氏が左クロスヘッド部位は磨き出しをされていましたが第一動輪本体は未ケレンであり、第二動輪部位も一部ケレンされてはいましたが大半が未ケレンでありさらに

左ロッドは第一~第三サイドロッド・メインロッドの上面のみ以前にケレンされてはいましたが数か月の間の雨の影響で再び錆に覆われ、リターンクランク等も元の状態になっていまし

たので、この部位の作業に取り掛かりました。何とか午前中に第一・第二動輪部はケレンを終了しましたが、午後からは冨田氏に応援を頂き二人で左サイドのロッドのケレン・再ケレ

ンを行い夕刻に作業を無事終了し、その後江口代表がいつもの如く錆止め剤を塗布され、機体下部の足回りは分解されたシリンダー被を除き赤く染まりました。

 今回訪問して感嘆したのは左右のシリンダー被(腐食により新しく製造予定)が村上氏の手で除去されており、左右気筒の製造刻印(打ち出し)が露呈されていた状態でした。これは

整備中と言えども中々拝見出来ない状態(C57-44は上部だけ確認)で、汽車倶楽部メンバーの高度な分解技術を大いに参考にさせていただきました。私は愛媛県八幡浜市に静態

保存されている79642号機の整備を八幡浜市から委託されており、8月初旬から作業を開始する予定でして、その準備等もあり10号機の訪問は当分の間伺えない事になりましたの

で、この訪問記2が最後の報告になるかと思われます。今後の10号機の整備の状況は「直方汽車倶楽部」のHPhttp://www.kisyaclub.gr.jp/や入江氏・小林氏のフェイスブックをご覧

頂ければと思います。私も10号機の整備状況の推移を楽しみに拝見させていただきます。

* 次に5/20段階で確認できた本機の刻印一覧表を掲載いたします。今後も整備が継続されますとコンプレッサーや給水ポンプ・各細部や運転室内の諸計器等のプレートに刻印や

表示が存在が確認されます。10号機を訪問されます際に参考にしていただけたらと思います。 (最後の写真は入江氏のフェイスブックから転載させて頂きました。私と冨田氏の作業

状況です。)

                             D51-10号機 刻印等一覧表 2018/05/20現在

機体 本体・台枠・動輪・ロッド等
左サイド 部位 右サイド
住ロゴ シ32-1 E62965S 大鐵ロゴ 自動連結器ナックル
MT1 480 自動連結器右側面
E82726K・T586 同 ナックルピン
D51236 L M86K  シ14-3 KY 先輪・輪体 D51236  シ14-3 KY
先輪・軸ツバ 45?89 シ13-10
住ロゴ W82101 シ43-8 TW KKシ44-6 先輪・タイヤ 住ロゴ T72041 シ43-8 TW KKシ44-6
L D5110 尻棒案内・油壷
6 20 二? 打ち出し刻印 尻棒支え 検出されず
L D5110 シリンダー前扉 R D5110
昭和28-3 T.T.6 形式D51.D52 NO-28-226 気筒側面 昭和40-10 N.N.Y. 形式D51.D52 NO 40-088
L D5110 シリンダー排水弁開閉棒 R D5110
検出されず  シリンダー後扉 検出されず
L D5110 弁心棒案内・油壷
L D5110 クロスヘッド部・油壷基盤上面 検出されず
L D5110 クロスヘッド部・ソケット R D5110
L D5110 クロスヘッド部・コッター R D5110
L D5110 合併テコ R D5110
L D5110 結びリンク R D5110
L D5110 偏心棒 R D5110
L D511021 (先端側部) スライドバー 検出されず
L 5110 加減リンク外側板上端 R 5110
L 5110 加減リンク内側板上端 R 5110
釣りリンク
釣りリンク・腕
逆転軸腕
AD39 第一動輪・カウンターウエイト
E21242 シ11-2ロゴ AD 39 第一動輪・輪心 E21236 シ11-1 AD50
第一動輪・ボス R1 D5110
第一動輪・軸ツバ 住友ロゴ W? 1747 D シ44-5 T124??
住友ロゴ W91747 Dシ44-5 T124 KKシ44-7 第一動輪・タイヤ 住ロゴ W91729 Dシ44-5 ST124 KKシ44-7
D5110 第一動輪・車軸受金 D5110
L1 ??? 第一動輪・動輪軸箱 R1  D51482
L1 D5110 第一動輪・軸箱クサビ R1 D5110
L1  D5146 第一動輪・軸箱守控え R1  D5146
L D5110 心向棒 R D5110
三菱ロゴ 305X280 ブレーキシリンダー前
第一動輪・制輪子釣り D51
NN 40 10 D51 13 40 140 2 第一サイドロッド 無し
凹部 シ40 12 KK 第一サイドロッド 凹部 シ40 7 KK
L D5110 第一サイドロッド・油壷前
L1 D5110 第一サイドロッド・油壺軸ツバ
B1F 第二動輪・カウンターウェイト B9F
E13715 シ10-12 ロゴ BLロゴ1 第二動輪・輪心 E21209 シ10-12 ロゴ B9 ロゴ
L2 D5110 第二動輪・ボス R2 D5110
シ10-12 シ11-3 21649 第二動輪・軸ツバ
住友ロゴ W91747 D シ44-5 T124 KKシ44-7 第二動輪・タイヤ 住友ロゴ W91747 D シ44-5 T124 KKシ44-7
L2  元印二種 判読不能 第二動輪・動輪軸箱 刻印あり
D5110 第二動輪・車軸受金 刻印あり
L2 D5146 第二動輪・軸箱守控え R2 D5146 さらに元印在り
背後にM266K 上部にG-2533? 21163  第二サイドロッド NN 39 10 D51 2 129 1 背後にM525K
L D5110 第二サイドロッド・油壷 R D5110
L D5110 エキセントリック・ロッド R D5110 
NN 38 11 D51 2  背後にM179K メインロッド 検出されず 背後にM60K
D51のみ メインロッド・ビッグエンド油壷 R D5110
L D5110 ビッグエンド・クサビ R D5110
D5110 ビッグエンド・受け金 D5110
L D5110  シ42.5.KK リターンクランク R D5110  シ42.5.KK
シ44,7,KK リターンクランク・軸ツバ シ.44.7.KK
第三動輪・カウンターウェイト
F13752 シ10-12 ロゴC3ロゴ 第三動輪・輪心 E21218 シ11-1 HC10
L3 D5110 第三動輪・ボス R3 D5110
第三動輪・軸ツバ
住友ロゴ W91747 D シ44-5 T124 KKシ44-7 第三動輪・タイヤ 住友ロゴ W91747 D シ44-5 T124 KKシ44-7
D51?? 第三動輪・動輪軸箱 D51??
D51 第三動輪・車軸受金 D51
判読不能 第三動輪・軸箱 判読不能
刻印あり 第三動輪・軸箱クサビ 刻印在り
L3 D51・・判読不能 第三動輪・軸箱守控え R3 D5146
検出されず 背後にM267K 第三サイドロッド 検出されず 背後にM270K
L D5110 第三サイドロッド・油壷 R4 D5110
L D5110 第三サイドロッド・油壷 軸ツバ
AD 3 4  第四動輪・カウンターウェイト AD B 13
F13925 シ11-1 AD34 第四動輪・輪心 E13745 シ10-12 AD13
L4 D5110 第四動輪・ボス R4 D5110
L4 シ29.9.KK D5110 22192-2 第四動輪・軸ツバ
住友ロゴ W91750 D シ44-5 T124 KKシ44-7 第四動輪・タイヤ 住友ロゴ W91747 D シ44-5 T124  KKシ44-7
従台車バネ守梁 13K?90
L D5110 イコライザー
44-7 小倉工 運転室側面 全検表示 判読不能
テンダー 従台車・従輪・自動連結器
O345 kk 47-10Z 第一従輪バネ鞍 O 410 KK 38-10
第一従輪軸箱蓋 R4 D51275
12 住ロゴ T48065-7 第一従輪軸ツバ D 900K シ42-2  TZ88
O345 kk 47-10Z 第二従輪バネ鞍 O 365  KK 40-9-2
L1 D51182 第二従輪軸箱蓋 L2  D51918
12 住ロゴ W5721-27-2 シ40-9 第二従輪軸ツバ D 900K シ47-5  KY22
KK 47 12 KK 44 7 O867 KK 43-12Z 第三従輪バネ鞍 KK 47 12 KK 44 7 O360 KK 40-811
D551K  シ39 12 KK  第三従輪軸箱蓋
第三従輪軸ツバ L4 12ロゴ39K881-19T  シ41-3
KK 47 12 KK 44 7 O364 KK 40-8 第四従輪バネ鞍 KK 47 12 KK 44 7 O661 KK 40-3
第四従輪軸箱蓋
第四従輪軸ツバ
自動連結器ナックル
シ44-6 2230 GM3825-36 ロゴ 自動連結器胴上部

* 本機は1936年(昭和11)03-29に川崎重工兵庫工場で完成し国鉄に引き渡されています。この完成時に関わる刻印が存在しておりました。本機を整備して驚いた事は左右の

第一~第四ボックス動輪輪心部に製造刻印が全て存在しており、動輪製造時のシ10-12・シ11-1・シ11-2の刻印が存在し左右の4動輪共に製造時のままである事が判明しました。

また左第二動輪軸ツバにもシ10-12・シ11-3の刻印が存在しこれも製造時のままである事が判明しました。

 次に各動輪タイヤですがいずれも住友製鋼シ44-5の製造であり、KKシ44-7はその装着時を表しており1969年(昭和44)08-06に全般検査を受けた記録と整合しており、運転

室左側面の44-7小倉工の表示とも合致しております。この全般検査は鳥栖機関区在籍時に行われており、1972年(昭和47)-5には直方機関区に異動し、1973年(昭和48)-7

には休車扱いですので、4年程度の運用・走行距離ならばタイヤがさほど摩耗してない事も頷けられる事かと思われます。

 テンダー左第二従輪バネ鞍、左右第三・第四従輪バネ鞍にはKK47-10KK47-12の点検刻印が存在します。これは本機が直方機関区に異動してからの最後の中間検査を受け

たことを示すものと考えられます。またテンダー後部の自動連結器もシ44-6の刻印から最後の全般検査時に新しく取り換えられた事が伺えます。

 私の整備方針は単にケレンし磨き出し、錆止めを行い塗装をする事は当然であり、機器や計器類修復・可動部位の復元も行いますが、各部位の自機刻印・他機刻印を確認すると共

に点検の記録印も克明に確認させていただいております。整備仲間からもそこまでしなくてもと言われますが、保存されている機関車の歴史や旧国鉄整備士の方々の足跡を追う事も必

要かと考えております。そういう観点では今回も直方汽車倶楽部の整備メンバーには整備上少なからずご迷惑をお掛けしたと思いますので、その点はご容赦いただけますようお願いい

たします。しかし、完全ではありませんが10号機のたどった形跡を少しは解明できたかなと思います。

 愛媛県八幡浜市に静態保存されています79642号機は9600型保存機としてはラストナンバーにあたります。同機は保存措置が遅れれば「追分火災」で焼失する筈でしたが、幸い

にも八幡浜市への輸送途中であり難を逃れた幸運機でもあります。同機もそのたどった歴史を明らかにしたいと思います。作業開始は8月初旬を予定しております。作業日は水~日で

すが一人で作業をしておりますのでお相手は出来かねますがご自由にご覧頂ければ幸いに存じます。                        2018/05/24 愛媛のkaze  大山